2017年12月30日

【論文】マンボウ論文の感想

あんまりこーゆーノリで論文紹介したくないんですけど、読んじゃったものは仕方ないのでひさびさに論文紹介します。僕はフォローしてないのですが心優しい方々が頻繁にRTしてTLに上がってくるので、いったい何が起こっているのか見に行ったらなんのことはない、自分でRTしてしばらくしたらRT取り消してまた自分でRTという涙ぐましい努力をしていらしたのです。
https://twitter.com/manboumuseum/status/941979994200276994
そんなわけで「あの論文ってそんなにすごいことなの?」と質問されてしまったこともあり(あと「うざいからアレどうにかしろ」と闇の勢力から謎の圧力を受けたので)今日紹介する論文はセルフRTで長らくアピールしてくれたこちらの論文

Sawai E, Yamanoue Y, Nyegaard M, Sakai Y (2017) Redescription of the bump-head sunfish Mola alexandrini (Ranzani 1839), senior synonym of Mola ramsayi (Giglioli 1883), with designation of a neotype for Mola mola (Linnaeus 1758) (Tetraodontiformes: Molidae). Ichthyological Research, https://doi.org/10.1007/s10228-017-0603-6

そこまで面白いというのであれば読んでやろうじゃねえか。

基本的にはこの著者による アピール画像(以下ポスターと記述)で触れられてる内容の確認と意義についてです。魚類の記載論文用語は知らないので形態と記載文については「著者の述べる通りなのだろう」と信頼して飛ばします。

で、まずポスターと論文を照らし合わせてみたんですけど、そもそもポスターの上半分はこの論文の内容じゃないのね。この論文の前に著者が2ndの共著として出した Nyegaard et al. (2017)の内容なんですよ。だからこのポスターをきちんとレビューするにはこっちの論文から読まないといけない。そんなわけでそっちも見ました。まぁおおむねポスターに書いてある通りの内容で、マンボウの新種を記載しましたということでした。ただ、もうこの時点で分類学のルールをある程度知ってる人にはお察し案件なんですけど、ポスターにも強調されている通り19世紀までに33種記載されていたというハナシじゃないですか。で、新種が見つかったので記載しました、ということであればですね、「この33種のいずれとも異なる種である」とその形質をひとつひとつ記述していかなければならないんですよ。ただ、マンボウが手当たり次第に記載された1800年代は今のようにちょいとググれば最新の文献に当たるようなシステムが整備されているわけでもない牧歌的カオスな時代です。「こんなヘンな形した魚がいる!これは新種に違いない!」と、世界中でお互いに知らぬ人達がそれぞれ新種として名前をつけてきた歴史があるわけです(たぶん)。こうした名前に関する混乱をまとめるための分類学ですから、同じものに複数の学名が当てられた場合は、それらの学名の中で一番最初に命名されたものを採用するというルールがあります(先取権の原則)。そんなわけで「33個学名が提唱されたからといって実際に33種いるわけではない、それぞれが勝手に言ってるだけでマンボウなんてせいぜい2種くらいしかいないだろう」と言ってのけるおじさんが現れるわけです (Fraser-Brunner 1951)。で、著者らは Fraser-Brunner (1951)を含め、これまでに出版された3つの文献を判断のベースとして (Fraser-Brunner 1951; Parenti 2003; Eschmeyer et al. 2017)、少なくとも2種のいずれでもない3種目のマンボウがいると主張しているのです。この表では「1951年、2003年、2017年に出版されたマンボウの論文ではこう言われている」というまとめ方をしています (Table 2)。まぁ事実上19世紀に記載されたすべての原記載標本をチェックするなんて不可能だとは思いますが(そしてこれがマンボウの分類が進んでこなかった理由だと思いますが)。

さて、前半の新種マンボウ記載はこの辺にしておきましょう。いよいよ今回のメインである魚類学会英文誌の方の論文です。ただこの内容、紹介していいのかなぁ…

いや、というのもカンタンなハナシでですね、今まで Mola ramsayiとしていた種に、もっと古く命名された標本が見つかりました、という内容なんです。一言で言ってしまえば1951年の時点で Fraser-Brunnerさんが「こいつもモラモラだ」と判断していたものが実はモララムゼでした、というだけのこと。つまり、この1951年のおっさんがモラモラとモララムゼを適当に分けてただけで、Nyegaard et al. (2017)で新たに記載された Mola tectaもこれまでに提唱されていた33種の中にいるんじゃねえの、という当然のツッコミが浮かぶわけです。今後そうした標本が再発見される可能性は極めて低いとは思いますが(古すぎるから)、33種のどれかが Mola tectaであった可能性はかなり高いだろうなあと個人的には思っています。もしそうした標本が見つかったら当然 Mola tectaの学名も先取権の原則により不採用となります。

ついでに言うと、 このツイート このツイート の画像は意図的か非意図的なのか知らないけど、明らかに間違っている部分があります。
https://pbs.twimg.com/media/DQVRoGLUMAAVkHM.jpg
意図的だとしたら悪質かつ意味不明だし 非意図的だとしたら自分の研究内容も理解してないのかっつーハナシなんですけど、この表では1839年、Ranzaniによって Orthragopriscus alexandriniとして記載されたものが Fraser-Brunner (1951)では Mola ramsayiとされた、と示されてます。が、実際には Orthragopriscus alexandriniとして記載されたものは Mola molaとされています。そりゃそうだ、 ramsayiと alexandriniが同じものだと当時分かっていたのであれば Fraser-Brunnerさんも最初から ramseyiではなく alexandriniを採用していたでしょう。

あと、僕が懸念するのはこの先のことです。この論文で著者らはいわゆるマンボウ、 Mola molaのネオタイプ標本を指定しています (指定したっていうのに MZUB (unnumbered)ってのはどういうことだ→ Table 1)。ネオタイプとは学名の命名の基準たりえるホロタイプ、その比較に使ったパラタイプなど、一連のタイプ標本が完全に失われた際に仕方なく指定する新しいタイプ標本です。これまでリンネが Tetraodon molaとして記載したタイプ標本が見つからないがゆえに Mola molaが Mola molaたる所以、いったい何をもってマンボウとするのかがハッキリしなかった。そのため、それっぽい形をしたものはみな「マンボウ Mola mola」といっしょくたにされてきたわけです。今回、著者らはこの Mola molaについて新たにネオタイプ標本として指定しました(イタリアの博物館、Museo di Zoologia, Università di Bolognaにあるどの標本かわからないけど、その中のどれか)。つまり、リンネが指定したものと同じ種かどうかはわからないけど、Mola molaの Mola molaたる所以、基準ができてしまったということです。ネオタイプ標本の指定というのは「問題があることは最初から分かってるけど誰かがしないことには整理できないから仕方なくする」という一面もあるのでそこまではいいのですが、うがった見方をすれば、この基準から少しでも外れた標本については「また新種のマンボウを見つけました!」と主張することもできてしまうわけです。マンボウについては素人ながら、世界中にこれだけ広く分布するとされるマンボウが3種程度で済むとは僕も思いません。実際にいろいろな情報を集めて構築すれば何種類かいるのだろうとは思います。ただ、それが19世紀に記載された33のどの種とも異なる全く新しく発見された種類なのかということについてはかなり慎重になるべきだろうと考えています。また、MZUB (unnumbered)としてネオタイプに指定した標本の写真すら載せていないのと(Figure 6のe, fに皮膚の拡大写真だけ載せてるけど Mola mola標本の一覧図 Figure 8には載っていない。どのような標本をタイプ指定したのかこの論文から窺い知ることはできない。まぁ本文読めば特徴は書いてあるのかもしれないけど【追記:Fig. 3bにありました。僕の見落としです】)、ネオタイプ標本に関するdescriptionの節がないのは記載論文としてどうなのと強く思います(『Neotype designation for Tetraodon mola Linnaeus 1758』という節に記載文があるのかと思ったけど誰々何年がああ言った、誰それ何年がこう言ったという背景の整理で標本の記載文ではないようでした。前半部の M. alexandriniに関する記載文のようにちゃんと標本のdescriptionを入れるべきだし、この『Neotype designation for 〜〜』は記載文のRemarksで述べるべき内容では)。

あと、ポスターの最後のほうとかは本当にどうでもよくて、「和名ゴウシュウマンボウは歴史から消え去ることになったのだ…」とか、だってそりゃ和名のハナシでしょ、と。本当にどうでもいい。このへん無脊椎勢と脊椎勢で感覚少し違うのかもしれないけど、無脊椎勢としては日本にいないものに和名つけること自体そもそもナンセンスと思いますからね。南半球にしかいないんでしょ?だってシーラカンスをムカシヨロイウオとか呼ばないわけじゃん。

あと、これは研究者として本当に不誠実な態度だと思うので指摘しておきますが、ご著書(日本語の一般書)を引用文献に使っていますね。それ、海外の研究者が確認できない資料じゃないですか。英文のアブストすらなく(たぶん)査読もされてないような一般書は引用に足る適切な資料ではありません。ご自身が「原記載は英語以外(ラテン語など)が多い→読めない!」と愚痴をこぼしているのに一般書も含む11本もの(追記:筆頭著者による)日本語文献をざっと確認しただけでも30回以上も(自己)引用して使うことも研究者として実に不誠実な態度であると言わざるを得ません。和文なら普通は引用文献リストに [in Japanese with English abstract] とか注意書きをつけるところですが、そうした配慮もありません。また、このご時世であればSupplementaryにいくらでもデータつっこむことができるのに unpublished dataとして5回、personal observationとして5回、読者がアクセスできない情報を10回も引用していることも研究者として本当に不誠実な態度です(ざっと見ただけでこれだけあったので、ちゃんと数えたらもっとあるのかもしれない)。一般書,
日本語論文, unpublished data, personal observationともに学術論文の引用のスタイルとして認められないことはありませんが、同定の基準となるべき分類学の論文で読者がアクセスできない情報をこうも安易に使うのは研究者として本当に不誠実な態度です。

ツッコミが長くなってしまいましたがものすごい雑にまとめると、ハナシとしてはこの著者が 2ndとして共著に入っている Nyegaard et al. (2017)の「Mola tectaという未記載のマンボウがいました!」で完全に終わっていることなんですね。今回の論文は、既知種の1つ、Mola ramseyiとされていたものにもっと古いタイプ標本が見つかって、これまで使ってた ramseyiがシノニムになりました、というだけの話なんです。というわけで、言葉を選ばなければいろいろ言えるのですが、たぶん世界でも5本の指に入るくらい真面目にこの論文を読んだ第三者であろう僕の感想を、言葉を選んで慎重に表現するなら「判断の根拠とする情報を和文やpersonal observation, unpublished dataなど読者がアクセスできない独善的な情報に依存する信頼のおけない内容」ということになりますし、ニュースバリューとして見ても「学名の変更なんか分類学やってりゃよくあること」ということになります。「専門的過ぎて一般に受けない」というのはメディアがかなり気を使ってくれた表現だったのではないでしょうか(論文投稿しても某n誌とかそういう表現でrejectくれやがりますし)。
posted by かめふじ at 16:24| Comment(1) | 論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ネオタイプの図はFig. 3bにありますね.注目すべきところは,Ozodura orsiniのホロタイプをmolaのネオタイプに指定したところです.molaが正体不明なので,そのままですとnomen dubiumになってしまいます.でも名前を活かしたかったので,molaの新参シノニムの1番目であるorsiniのホロをネオにすることで解決したのだと思います.これで,orsiniは議論の余地なくmolaのシノニムになるわけです.裏ワザなのですが,このことはちゃんと書いていないです...本来なら,ネオタイプをたてたmolaをきちんと再記載しないのは,まだmolaに近似の未記載種か名前が復活する種がいるからだと勘ぐっています(論文にもちょろっと書いてあります).molaを再記載する以上,シノニムリストや分布図も出さなくてはなりませんから,もし,もう一種を分割して記載しようとしているのなら,今回の論文でmolaはフォーマルに再記載できなかったのでしょう.
Posted by at 2018年01月01日 15:13
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